空ゴト日和の庭

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11/23 読了本『サブマリン』伊坂幸太郎

 

サブマリン (講談社文庫)

サブマリン (講談社文庫)

 

 家庭裁判所調査官の武藤&陣内が活躍するシリーズ第二弾。

無免許運転を起こし相手を死亡されてしまった19歳が実は過去、友達を交通事故で亡くしていたと判明。復讐心に取りつかれていた被害者だった少年が加害者となって現れる、そのやるせなさは本来なら救いのない暗い話になりがちなのに、陣内の破天荒さ、武藤の誠実さ、なにより伊坂ワールドによる温かさに包まれている。救いのない物語があるのだとしたら本作はその正反対のような、救いのあり過ぎる物語にも見えた。

伊坂作品が、初期、中期、後期と内容がわりと違うのは有名ですが、中期作品が暗く厳しめの作品が多いのに対し、後期の作品はあったかく安心して読める作品が多くあります。私は中期の作品が苦手で、この後期のふんわりとしたエンタメに振り切った作風が好きで、その中にでもしっかり考えさせる、それでいて読者の気持ちを安定させる要素も入れられていて、本作の最後のあの部分なんて、完全に読者サービスで、この物語は救われているから安心していいと言われてる気がしました。これがなければ、どんな理由があろうともこの子は無関係な人を殺してしまったんだと、心に棘が刺さったような感覚が残っていたかもしれません。わざと棘を残して読者に何かを考えさせようとする作品もあるのですが、私はそういうのがとても苦手で、なので、このまるで読者を思いやるような作風がとても好きです。

加害者と被害者どちらに寄り添うべきか、その境目に立った武藤と陣内の活躍は難しいはずなのに、決して悲惨にはならず、軽快に爽快に描かれている。

面白かったです。