"ブラウン神父、亜愛一郎に続く、令和のとぼけた切れ者名探偵登場!"という帯の文言に見事に釣られてしまった私です。が、まあ、まあまあでした。
私は、亜愛一郎シリーズがとても好きで、キャラがどうとかではなく泡坂妻夫さんの描くあのシリーズが本当に好きで好きすぎるので(寧ろ一番好きかもしれない)そう意味でハードルが上がりまくっていたので、まあ、そこまでじゃなかったのは、当たり前のように仕方のないことです。でもまあ普通に面白くはありました。
個人的に一番面白かったのは登山の話「ホバリング・バタフライ」です。こっちの山のゴミが、あっちの山に捨てられてるんじゃないか疑惑を調べている女性が語り手として、たまたま居合わせたエリサワくんと調査することになったのだけどその過程で思わぬ事件に遭遇してしまう。前半の些細な行動がその後の事件に関わってきて、最後のオチに昆虫との関連性まで紐づけていて完璧でした。それ以外だと、「火事と標本」も良かった。これは全てが終わっている過去の事件を思い出すという形のエピソードなのだけど、村八分的な差別を受けて関わるなといわれている人と関わった少年時代の語り手の思い出。不遇な立場にある人の辿る悲劇は、悲劇しかないのだけど、エリサワが暴き出した真実は救いではなく、けれでもただの悲劇ではなくそこに少しの狂気が足されたものだったというアクセントの効いたもので私は好きです。
ところで、読メの感想欄を眺めていると、意外に亜愛一郎を知らないという人が多くて、いや、驚いてはいけない、なんてったってどえらく古いんだから仕方ないんだけど、私は亜愛一郎に釣られてこの本を読んでしまったのだけど、ここから亜愛一郎を読む人が増えるのは良いことですね。"探偵"ものが好きなら亜愛一郎は断固読んで損はないですよ。