空ゴト日和の庭

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10/3 読了本『失われた過去と未来の犯罪』小林泰三

 

失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)

失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)

 

 人の記憶が10分しか持たなくなってしまうという近未来SF。

第一部では、突然記憶が10分しか持たなくなってしまった人々の大混乱が描かれています。例えば女子高生、例えば原子力発電所などで、10分間しか覚えていない人々が、メモを取り、自分のメモを見てはまた大混乱に陥り、SNSで少しずつ事態を把握していく。把握してもすぐに忘れるのだが。それでもすぐ近くにメモを用意して何とかしていこうとする様はとても緊迫感があって良かった。

第二部では、長期記憶ができなくなった人々が外部の記憶端末を脳に直接リンクさせることで生きていくすべを見出していた。生まれた時から記憶端末を身に着けており、しかし、その記憶端末が別の人に差し込まれると、人格が移動したように感じられ、人の意志とはどこにあるのかと、ということを問う話になっている。第一のエピソードでは、とある男女がぶつかってお互いの人格(記憶端末)が入れ替わるというほんわかエピソードだったのでほっこりした気分で読めたのに、第二の話、第三となっていくと、死んだ人の記憶端末を別の人に差し込み、まるで生き返ったような感じになったりと禁断の域になっていく。

 

個人的には、第一部の話がパニック映画ぽくてとても面白かったです。第二部は記憶端末を持った未来人のまた別の設定のお話という気もして。

正直いうと、人類が長期記憶ができなくなったら滅びるでしょ、としか思えないので、10分しか記憶が持たない中でどうやって人々が毎日を生きていくのかということを本格的に描いて欲しかったなぁという気もします。