空ゴト日和の庭

主に本とゲーム

12/22 読了本『制裁』アンデシュ・ルースルンド

 

制裁 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 

ひたすら救えない話でした。
幼女連続殺人犯が護送中に脱走し、またもや少女が殺された。殺された少女の父親が復讐のため犯人を殺害。世間は父親を擁護する声が多く、民衆は熱狂、一部暴徒化までし、父親を有罪にしようとする検察官にすら危険が及び、犯罪者に制裁は正しいのだと、世間では犯罪者に対する集団リンチが横行する。犯人、殺された少女の父親、当然だとする民衆、犯人を憎む警察、それでも裁判は法の下にすべきという検察など、それぞれの心理描写が鮮明に描かれており、みんながみんな憤り悲しみ怒っていてひたすら救われない。意外性があるわけではなく、ある意味では想像通りの最悪の出来事が次々と起こってしまう。

序盤から幸せな家族が描かれ、その少女に悲劇が襲った時は読み手は強烈な犯人に対する怒りが湧き、ひたすら父親に共感してしまうが、その後の悲劇や、復讐を果たした父親の心境を考えると、復讐というのは殺される犯人のためでは断じてなく、加害者になってしまう人のために絶対にまずいのではと思ってしまいました。

この作者の本は「地下道の少女」を読んだことがあり、それがとても面白く他の作品も読んでみたいと思い、取りあえずシリーズ一作目をと読んでみたのですが、地下道に比べ、随分と遊びがないなと思いました。地下道の方はエンタメ的なミステリー要素が強く、もちろん社会性もあったのだけれどわくわく感の方が勝っていたのですが、本作においてはミステリー性はほぼなく、何かを訴えかけるような作品でした。ただ作者特有の心理描写は健在で、私が特にこの作者に惹かれたのが心理面を織り交ぜた小説の描き方だったりするのでそこは楽しく読めました。正直、あらすじだけだと絶対に読まないタイプの小説です。しかし、この作者の本であるならまた読んでみたいと思ってしまいます。私ってば実は文章タイプを重視する人だったんだなと。あらすじよりも合う合わないってわりと重要ですよね。

本作の内容に戻りますが、ここまで悲劇と制裁が繰り返されたなら、最後に名もなき民衆たちにも何らかの制裁が欲しかったなと。そうすればこのもやもやもどうにかなっただろうが、そのもやもやさせることに意味もあるのでしょうね。

また別の作品も読んでいきたいです。