空ゴト日和の庭

主に本とゲーム

11/15 読了本『消滅世界』村田沙耶香

 

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)

 

 とてもSFだった。今の価値観とは全く違う世界観の話。実際こんな風に世界があることは可能なんだろうか、ちゃんと世界として確立されるんだろうかと考えてしまいます。

夫婦間による性行為ではなく、人口受精で子供を産むことが定着した世界。家族とは家族であり、恋人とは外に作るもの、家族とセックスすることは近親相姦であると、それが常識である世界の中で、家族とはどんな意味を持つのか、傍から見ていると、兄妹間の関係に似ているのかなとも思えました。妻が夫にあなたも早く恋人作りなさいよと応援したり、アシストしたり、一種異様にも見えたけど、それで皆が幸せならそれでいいんじゃないかと、物語の前半部分では思えました。

しかし、後半部分に出てくる"実験都市"で、私の道徳観?価値観かな?が拒否反応を示してしまいました。そこでは抽選によって選ばれた人が決められた日に人工授精をし、生まれた子供はセンターに預けられ、すべての大人が「おかあさん」であり、全ての子供が「子供ちゃん」として、都市の人達みんなで育てられるのだ。始めは違和感を持っていた主人公が段々とそこの常識に飲まれていく様が描かれているので、生まれた子供がどんなふうになるのか、その都市の"実験"は正しく成功するのかそこに言及はされないのだけど、自分の常識からするとこんなもの上手くいかないのでは?という思いがぬぐい切れませんでした。物語の最後では男ですら子供を産むことができるようになり男女が結婚する意味は全くなく、意味がないのなら確かに一人で生きていくことが普通になるのだろうか。こういう特殊な世界観の話というのは本当に好きなのだけれど、大抵の場合は主人公ただ一人の視点から描かれる場合が多く、その世界を、他の人たちがどう考えて生きているのかとても気になってしまいます。

 

ところで村田沙耶香作品はいくつか読んでいて、後味の悪いもの、そうは感じないものとありますが、個人的には微妙なものの方でした。犯罪はNGです。狂ってしまった人の末路といいますか、お隣の人とは和解してほしかったなと。まあ村田作品において誰かと誰かが分かり合うなんてまずないんですが、それでも自分は自分だと突き進んでいければ良かったのにと思ってしまいます。『コンビニ人間』がそれでしたよね。それで一人を選んだ。やはり一人が最良か、と村田作品を読んでいるとそう思わせるような描写が多いのですが、だからこそ逆に、いやいや人と関わり合うことでこそ笑いあえることもあるよ、と言いたくなることも多く、面白いですね。